□■第5話■□
翌日、キラは昨日と同じベッドの上で目を覚ました。昨日は遅くまでギルバートと話し込んでしまい、どうやら眠ってしまった自分を部屋まで運んでくれたようだ。
「わわっ・・・」
それに気づいたキラは慌ててベッドから飛び起きると、パタパタと食堂に向かう。
「お、おはようございます!」
駆け込むと同時にキラはそういった。すると、すでにテーブルについていたギルバートが苦笑を浮かべた。
「おはよう、キラ。だがそんなに慌てなくても、まだ寝ていてよかったのだよ?」
時計の針が指す時間はまだ早朝といっても差し支えはない時間だ。昨夜は遅かったし、キラはまだ寝ていても問題はなかったのだが・・・。
「で、でも・・・今日は早く出られるといっていたじゃないですか」
「だから、その前に挨拶くらいしたかったんです」というキラに、ギルバートは目を瞬かせたが、やがてやわらかな笑みを浮かべた。
「そうか。ありがとう、キラ」
「はい!」
ギルバートの言葉に、キラは嬉しそうに顔をほころばせ、彼の向かいの席に腰をおろした。
そして彼らの目の前に食事が運ばれてくる頃、ばたばたばた・・・という足音が聞こえてきた。
「おや、お目覚めかな」
ギルバートが苦笑とともにそういった直後、大きな音を立てて部屋の扉が開かれ、黒い髪を寝癖でぼさぼさにした状態のシンが飛び込むように入ってきた。その顔はかなり青ざめている。
「も、申し訳ありません、議長!ね、寝てしまうつもりなどなかったんですが・・・!!」
昨夜、キラと食事をとった後、ほんの少しだけ休むつもりで目を閉じて、気がついたらすでに外が明るくなっている状態。もしかしなくても、ギルバートの家に泊まってしまったのは間違いなく、シンはかなり焦っていた。
必死に言い募ろうとするシンに、ギルバートは苦笑し、言った。
「構わないよ、シン。元々私の無理な願いを聞いてもらったのだしね」
「し、しかし・・・」
いくらそういわれても、シンからすればかなりの失態だ。ましてや頼まれたのはギルバートの代わりにキラの傍にいることなのに、眠ってしまったということはそれさえも中途半端にしてしまったということなのだ。
「そんなに硬くならなくてもいいんだがね。シン、こっちにきて朝食をとるといい」
「えっ!そ、そんな!」
ギルバートの誘いに、シンは声をあげてしまった。泊まってしまっただけでもかなり申し訳ないのに、朝食までともにするなんて・・・といいたいのが顔を見れば分かる。
そんなシンを見て、キラが微笑んだ。
「おいで、シン君。一緒に食べよう?おなかすいてるでしょ?」
「で、でも・・・」
キラの誘いにもシンは躊躇う。確かにすいていないといえば嘘になるが、だからといって議長と同席しての食事にはさすがに躊躇してしまう。だが、そんなシンの反応を見たキラは、淋しげに顔をゆがめた。
「・・・迷惑・・・?」
「そ、そんなことない!!」
キラの言葉に、シンはすぐさまそう叫んでいた。そして、そう言ってしまった以上、断るなんてことできなくて。
「し、失礼します・・・」
ギルバートに断りを入れてから、シンはキラの隣に腰をおろした。さすがに、ギルバートの隣に座る勇気はなかった。そんなシンに、キラはクスリと笑みを零すのだった。
それから三人で食事をとっていると、そこに執事の男性が入ってきた。
「ギルバート様、通信です」
「誰からだ?」
「アスラン・ザラ様からです」
「!」
執事の言葉に、キラがはっと目を見開き、そのまま部屋の影に隠れてしまった。
「キラさん?」
そんな彼の行動にシンは首を傾げたが、キラは返事もせずに隠れたままだ。そんなキラの様子を見てから、ギルバートは執事に繋ぐように促した。
『議長。早朝から申し訳ありません』
「いや、構わないが・・・どうかしたのかね?」
画面に映し出されたアスランに、ギルバートはいつもと変わらぬ表情で答える。
『昨日の会議のことについて少々お話したいことが出来ましたので、今日中にお時間をとっていただけないかと思いまして』
「分かった。本部につき次第話を聞こう」
『ありがとうございます。・・・?』
ギルバートの言葉に礼を述べたアスランは、ふと首をかしげた。
『・・・シン・アスカ?何故彼がそちらに?』
「え、あ・・・」
議長の護衛である彼がいるということは何かあったのか、と表情を険しくするアスランに、シンは慌てた。だが、自分の失態をそのまま話す気にはなれず、言葉がでてこない。
そんなシンの代わりに、ギルバートが口を開いた。
「私の私用できてもらっているだけだよ、アスラン。君が心配することはない」
『そう、ですか?それなら良いのですが・・・では、失礼します』
それだけ言うと、アスランからの通信は切れた。それを確認して、ギルバートは隠れているキラの元に足を進めた。
「キラ、彼からの通信はもう終わったよ?」
「あ・・・」
ギルバートの言葉に顔をあげたキラは、明らかに「やってしまった・・・」という顔をしていた。その視線の先には、呆気にとられているシンの姿。『アスラン』という名を聞いて反射的に隠れてしまったのだが、シンからすればかなり異様な光景だったろう。
「え、えっと・・・」
何か言わなければならないのだが、焦る思考はいい答えを出してはくれない。そんなキラを助けるかのように、ギルバートが言った。
「シン。そろそろ出る時間だ」
「え、あ、は、はい!」
ギルバートに言われ、シンは慌てて時計に目をやり、頷いた。もとよりギルバートの護衛役のシンだ。ギルバートが家を出るなら、それについていくのが当然だった。
「それではキラ、いってくるよ」
「あ、い、いってらっしゃい・・・」
唐突な展開に呆然としながらもキラはどうにか彼らを送り出す言葉を紡いだ。
車に乗り込んだシンとギルバートは、そのまま評議会本部へと向かった。その車内、シンがギルバートに話し掛ける。
「あの・・・あの人とアスラン・ザラは・・・?」
あのキラの反応を見れば普通の関係でないことは一目瞭然だ。それも、キラは明らかに会いたくない様子だった。
どういうことか説明して欲しい、と言えば、ギルバートは僅かに目を細めた。
「キラにも色々と複雑な事情があってね。私の独断で君に話すことは出来ない。君にも、他人に勝手に話されたくない過去はあるだろう?」
「それは・・・」
ギルバートの言葉に、シンは俯いてしまう。確かに、自分にだってあるからこそ、それ以上の言及は出来なかった。だが、彼の人が気になるのも事実で。
「・・・」
何かいいたげなのが分かるシンに、ギルバートはふぅ・・・とため息を漏らし、言った。
「シン、キラの事は絶対に彼には告げないでくれないか?」
「え?」
「君も見てわかるだろうが、キラはアスラン・ザラとはあまり会いたくないようでね。キラがそう思っているのなら、私はその望みにそいたいと考えている」
だから、とそう告げるギルバートに、シンは少し考え込んだ後に頷いた。
「分かりました。キラさんのことは、俺の胸のうちにしまっておきます」
「感謝するよ」
シンの言葉にギルバートは満足げにそういった。ギルバートがシンにそう言ったのはシンがアスランにキラのことを聞く可能性を危惧したからだ。ほんの数日ともにいただけでも彼の人をひきつける魅力は分かるから。だから、シンがキラのことを知ろうとしてアスランに聞く前に、釘をさしておいたのだ。
―――まぁ、シンがどう動こうと、今更あの子を、手放す気はないが、ね・・・。
ギルバートは心の中で小さく、そう呟いた。
□■あとがき■□
一人抜ける形になってしまいましたが、一応一巡して戻ってまいりましたレシュカです。
色々むちゃくちゃな展開で申し訳ありません・・・。しかもあまり話進んでないし・・・(汗)
とりあえずアスランから逃げるキラを書こうと思ったんですが・・・玉砕ですね(滝汗)
もう少しちゃんとギルキラシーン書くべきでしたかね・・・。
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