第4話



□■第4話■□

ちらりと時計を見て、ギルバートが考え込む。

先程から何度か繰り返す、その仕草にシンが不思議に思って。

「・・・どうかされたんですか?」

浮かない表情のギルバートに、護衛のシンがそう声をかける。

「いや・・・」

何でもないのだよ、と言いつつも、彼の表情は晴れなくて、シンは首を傾げた。

「デュランダル議長」

名を呼ばれ、彼が振り返れば、そこには若くしてプラント評議会議員となったアスラン・ザラがいて。

真摯な瞳をギルバートへと向けていた。

彼のその瞳は先の大戦を戦い抜けてきただけの強さがあり、ギルバートは彼のその目が好きだった。

「そろそろ・・・」

会議が始まります、とアスランが告げて、ギルバートが頷く。

「ああ」

これから始まる会議はプラント、地球間にとって、とても重要なものだ。

今後の展開に大きく影響するだろう。

それほど重要なものだと彼もわかっているけれど。

家に残してきた少年の事が心配で。

ちゃんと食事をとっているのだろうか・・・と。

しばし考え込む自分の顔を、アスランとシンが訝しげに見つめていて。

ふとある事をギルバートは思いつく。

「シン」

「はい!!」

何でしょう、とギルバートに近づいたシンが姿勢を正して、彼の言葉を待つ。

「頼みたい事があるのだが・・・」

「はい」

アスランと同じ様に真っ直ぐな視線を向けるシンに、ギルバートは微かに笑みを浮かべて。

シンの耳元で何事かを囁くのだった。





「・・・お腹空いたかも」

ソファの上にちょこんと座っていたキラが、ぱたりとソファの上に倒れ込む。

特に何かをしてしたわけでもないのに時間が過ぎて。

お腹も空いてしまった。

この家にいる人に頼めば、食事はできるけれど。

今のキラと一緒に食べてくれる人はいないから。

一人で食べるのは、やはり寂しいものだ。

一人で食べる事に慣れてはいるけれど、広いこの家ではますます寂しさが募るだけだ。

ギルバートが帰ってくるのを待とうかとも思うが、いつ帰ってくるのかも自分にはわからないから。

「・・・どうしよう」

部屋の時計を見て、キラがぽつんと呟いた。

ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴って、キラの心臓が跳ねる。

びっくりした、と心の中で呟いて、キラが玄関へと向かう。

もしかしたら、ギルバートが帰ってきたのではないかとそう思って。

けれど、そこにいたのはギルバートではなく、黒髪の少年で。

歳は自分と同じぐらいだろうか、利かん気の強そうな赤い瞳が印象的で。

「キラさん!!」

唐突に自分の名を呼ばれ、キラが目を見開く。

どうして、自分の名前を知っているんだろう、とキラは思う。

彼に自分は見覚えがないし・・・と考えていると。

「キラさん、ですよね!?」

「・・・はい」

「・・・良かった、いた」

議長から話を聞いた時には、もしかしたら彼はここにもういないのではと、シンは思ったから。

深々と息を吐き出して呟く少年を、キラがまじまじと見つめる。

「あの・・・」

どちら様ですか、と問うキラにシンが慌てた。

「あ、えっと俺、いや僕は議長に頼まれて・・・」

「ギルバートさんに?」

「はい」

貴方の事が心配だからと、議長はおっしゃってましたから、と言う彼に、キラが驚くが。

ギルバートの気遣いをありがたく思った。

「それで貴方が・・・?」

「はい」

キラの言葉に彼が頷き。

「あ、紹介が遅れました。俺・・・いや、僕はシン・アスカです」

デュランダル議長の護衛を勤めています、と普段からのくせなのか敬礼をする彼に、キラが吹き出す。

くすくすと笑うキラにシンがわたわたと上げていた手を下ろした。

「ごめんね、笑うつもりじゃなかったんだけど」

シンの仕草が可愛くて、などと言えば、きっと彼は怒るだろう。
そう考えて、キラは笑うのをやめ、複雑そうな顔をしている彼へと向き直る。

「はじめまして、キラ・ヤマトです」

よろしく、と手を差し出せば、シンがおずおずと手を握り返してきて。

キラがにこりと微笑んだ。

「そういえば夕食はもう食べたんですか?」

「あ、まだなんだ」

どうしようかと思って、とキラが答えて、しばらく考え込む。

「キラさん?」

「シン君は夕食は、まだ?」

「え、あ、はい。まだです」

でも、どうしてそんな事を、と問い返すシンに、キラがにこりと微笑みかけて。

「良かった」

じゃあ、一緒に夕食を食べよう、とキラがそう提案する。

「一人で食べるのは寂しいから」

嫌かな、と首を傾げる彼に、シンが嫌だと言えるはずもなく。

「・・・はい」

シンが頷けば、キラが本当に嬉しそうに笑う。

「ありがとう」

そう言って穏やかな笑みを浮かべるキラに見惚れて、シンは慌てて顔を逸らした。





結局、深夜間で長引いてしまった会議を漸く終えて、ギルバートは家路へと急ぐ。

時計を見れば、針はもう0時を過ぎていて。

きっとキラはもう眠ってしまっただろうと、ギルバートは思った。

車から降りて、家へと目をやれば。

明かりが点いていることに気づく。

まさか、と思いつつ、家の中へと入れば。

「おかえりなさい」

ぱたぱたとキラが駆け寄ってきて、笑みを浮かべて、彼を出迎える。

「まだ起きていたのかね?」

「はい」

少し眠たそうにしながらも、キラが起きていて出迎えてくれた事が嬉しくて。

自然と彼の口元に笑みが浮かぶ。

「寝ていても構わないのだよ」

「僕が勝手に待っていただけですから」

柔らかくキラが微笑んで、ギルバートが上着を脱いだのを見て、キラが手を差し出す。

「皺になるといけないから」

にこりと笑うキラに、ギルバートも笑みを返して、彼に上着を渡した。

それを大切そうに受け取ったキラが皺にならないようにと綺麗に伸ばすのを見て、ギルバートの口元に自然と笑みが浮かんだ。

「あ、そういえば」

キラが顔を上げ、ギルバートを真っ直ぐに見つめてから、ぺこんと頭を下げる。

「今日はありがとうございました」

「何の事かね?」

キラにお礼を言われる様な事を自分はしただろうか、と思いつつ、問い返せば。

彼は笑みを浮かべたまま答える。

「シンの事です」

僕が一人じゃ寂しがるだろうからって、彼をここに寄越したんですよね、と可愛らしく首を傾げた。

「お気遣い、ありがとうございます」

おかげでとても楽しかったです、と続けるキラに、ギルバートが頷く。

「一人で食事というのも寂しいものだからね」

「・・・はい」

そうですね、とキラも呟いて。

そういえば、シンの姿が見えない事に不思議に思ったギルバートがその事をキラに尋ねる。

「それで、シンは?」

「疲れてたみたいで、今は寝てます」

「そうか」

そんな会話をキラと交わしつつ、ギルバートは自室へと向かう。

しばらくの間、会話が途切れたが、キラがふとある事に気づき、隣を歩くギルバートを見上げる。

「これから食事ですか?」

「ああ」

会議が長引いたものでね、とギルバートが苦笑する。

それを聞いたキラがしばらく黙り込むが、やがてにっこりと笑い、彼の上着を手にしたまま、その場をぱたぱたと駆け出した。

その後ろ姿を見送ってから、ギルバートは再び自室へと入っていく。

漸くゆっくり書類に目を通す事ができると思いつつ、彼はソファへと座り込む。

しばらくして、簡単な食事が運ばれてきて、一度書類を机の上へと置いた。

コンコン。

ドアをノックする音が響いて、ギルバートが顔を上げる。

「どうぞ」

そう答えれば、ひょこんとキラが顔を出した。

キラは手にマグカップを手にして、部屋の中へと入ってくる。

「ここにいても良いですか?」

邪魔じゃないですか、と繰り返すキラに。

「ああ。構わんよ」

ギルバートの返答にキラは嬉しそうな様子で、彼と向かい合うようにソファへと座った。

手にしたマグカップを指で温める様に持って、キラがにっこりと笑う。

笑みを浮かべたまま、特に何をするでもないキラに、ギルバートは彼の真意を掴みかねて。

「キラ?」

どうかしたのかね、と言えば、キラが首を横に振る。

「では、何故ここに?」

ますますキラの考えている事がわからなくて、重ねて問えば。

キラが笑顔のまま答える。

「一人で食べるのは味気ないでしょう?」

そう言うキラにつられて、ギルバートもまた笑みを浮かべた。

「・・・そうだね」

キラの心遣いを嬉しく思いつつ、ギルバートは口を開く。

「それで今日は何をしていたのかね?」

「え?」

急に問われて、キラがきょとんとギルバートを見返して。

一瞬、考え込むが、すぐに彼の意図を理解して、笑顔になる。

「はい!! あ、えっと、今日は・・・」

嬉しそうに話し始めるキラを優しく見つめて、ギルバートはキラの話に聞き入るのだった。










□■あとがき■□
という事で、急遽4番手になりました李梨華です。
4番手の方の都合の関係で、こういう事になりました。
急だったので、何を書いてよいかわからず、こういう話になりました。
勝手にシンとアスランを出してしまって、すみません(←あわあわ)
でも、ギルキラ甘々、ほのぼのを目指したつもり・・・です(苦笑)


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