第2話



□■第2話■□

「え、あの・・・」
キラはギルバートに腕を引かれながら、車へと乗った2人は数十分後にギルバートの家へと着いた。



車から降りると目の前に広がるソレにキラは驚きを隠せなかった。

さすが"議長"の地位を持っているだけあって、家の敷地は半端になく広く、屋敷もとても大きい。
クライン邸も広く大きかったが、ギルバートの家はそれ以上でもあった。

屋敷の、敷地の広さに驚いているキラを見たギルバートは軽い笑みを浮かべた。
「こう家が広いと、1人では寂しいものだよ。さぁ・・・中へ入ろう」
「はい」
背中へと手を回され、こういう持て成しに慣れていないキラは何か照れくささを感じた。
そのためか多くの迎えた執事やメイドの視線で恥ずかしくなり少し俯いてしまった。



屋敷の中へと入った2人は2階へと移動し、一室の部屋へと入った。
壁際には棚と本がズラリと並び、中央に4人は座れるソファと奥に大きい机と椅子があった。
周りを見るかぎり、そこはギルバートの私室には見えなかった。どちらかというと書斎に似た感じだろうか。
真正面には大きな窓があり、そこから差し込む光りは部屋を明るく照らす。
そこからはベランダへも出れ、さぞ庭の景色を楽しむことができるだろう。

ドアから先に足を進ませたギルバートは、机の先にある本革の椅子へと腰をかけてキラの方へと向く。
「遠慮せずに、掛けてなさい」
キラの前にあるソファへと腰をかけるようにと、ギルバートは手を伸ばした。
口調はとても優しく、人を安心させるかのような声だった。

だが、そう言われソファへと腰をかけたキラの中で緊張が生まれた。
今、目の前に『真実』を知る人がいる。嬉しくもあったが少し不安でもあった。
ドクンドクンと心臓音が鳴り、それがとても大きく聞こえる様に感じた。
「議長は、僕の・・・メンデルの何を知っていらっしゃるんですか?」
キラは膝に手をつき、少し汗ばんでいる拳をぎゅっと握った。

「敬語はなしにしてくれて構わない。その議長というのも堅苦しいのでギルバートと呼んでくれていい。 その方が私も楽でね。ここは軍でもなければ、ここにいる私は評議会議長でもなく1人の人間だ」

「わかりました。」

ギルバートは足を組み、両手を握った。
「あれは・・・・君が2、3歳ぐらいの頃だったかな?君はまだ幼く、まだ立てたばかりという頃かね。」
2、3歳の頃の記憶など誰にだってない。あったとしても、両親のことか、強烈なインパクトのある出来事を微かに覚えるのがやっとだろう。
幼かったから記憶になかったのだとキラは納得した。

「キラの母、ヴィア・ヒビキ。私は彼女の友人でね。メンデルのことで色々と相談を受けていたのだよ。」
「では・・・やっぱり僕はっ・・・」
「そう、君は最高のコーディネイター」
ギルバートの言葉にキラはビクリと肩を揺らした。
思わず顔が俯き、無意識に眉を寄せる。少し震えた手を抑えるかのようにギリギリとより強く握り締めた。

やはり、そうなのだ。と・・・
敵であるクルーゼの言葉を聞き、フラガさんには「そんな話を信じるな!」と、言われた。
真実なのか、真実ではないのか信じるか信じないかは自分次第。
だが、クルーゼの言う内容はキラの心を揺らすには十分のもので
心の中はまるで真実か真実ではないのか、2つを天秤に吊るされた状態だ。

けれど今、ギルバートの言葉で真実だったのだと決定打を打たれた。
市民からの人気も厚い議長の彼が僕個人に嘘をつくわけがない。そして嘘をつく理由もないのだから。
議長でなくとも、彼は僕に嘘をついていない。
・・・何故かそう思えた。



「ヴィアはキラを大層心配していた。今までとは違う最高のコーディネイター、我が子を実験台に使われた事に彼女は泣いていた・・・。」
正直、自分の母親があの写真の人という実感はキラの中では少しでしかなかった。
自分とそっくりな女の人。
だが、幼すぎた自分には記憶がなく、母親だと言われてもピンとくるものがなかった。
少しでも彼女との記憶があれば違っただろう。


「成功してから何年も経ち、月日が経てど成功はたったの1度だった。 後は悲惨にも失敗ばかりが続出し、失敗する度に多くの命を失い、 その度に彼女は嘆き私の所へと相談しにきていた・・・。そんな時だ、君と会ったのは」
心底懐かしそうに・・・・そう、先程出会った時と同じのような声で彼は言った。

「相談に来たヴィアの腕の中に君はいた。彼女は『私の子』だと嬉し気に笑って君を紹介し、 また私の目には彼女の表情は少し悲しげにも見えた」
きっと辛かったのだろう。

自分の子が実験台にされたことも。そしてそのせいで狙われることも・・・

そしてその表情からこの子が"最高のコーディネイター"の成功作とわかった。



「君と会ったのはその時、たった1度だけだったがね。 アメジストの瞳がとても奥深く神秘的な美しさを持ち私の中に深く残るような気がしたよ」
とても懐かしそうに笑みを浮かべるギルバートにキラは気恥ずかしさを感じ、 自分の記憶にないだけに、余計気恥ずかしさを感じた。



「当時、君はブルーコスモスの最大の標的であり、そのため研究室への警備は厳重にされていた。 だが、ブルーコスモスは様子を見、警備が薄くなった時を狙いテロを起こした。 それから彼女との音通は途絶えてしまった・・・」
ギルバートがそこで僅かに眉を寄せた表情はキラの目にとても辛そうに見えた。

何故自分は覚えていないのだろう?
たとえ幼かったどいえどそんな衝撃のある事件を覚えていないはずがないのに・・・・
いくら考え、記憶を巡らせても少しも浮かびあがってこない



「音通が途絶えたその直後にメンデルではバイオハザードの事件起き、死人も多く出たと聞いて心配だったが、無事でよかった・・・キラ」
ギルバートの眼差しがとても懐かしそうに感じ、とても愛しそうな、まるで自分をとても心配していた雰囲気を漂わせる。

たった1度だけ会っただけだ。
いくら友人の息子とはいえ、そこまで気にかけることではないのに・・・
けれどこの人は自分の名前も覚えており、そして成長した姿をすぐに見破った。

この人は・・・






「キラっ」

いきなり立ち上がりこちらを驚いた表情で見るギルバートに、キラは少し驚き目を見張った。

どうしたのだろう?と不思議に思いながら。



ポタッ



あれ・・・・?

手の甲に少し生暖かい雫を感じ、そこが何処から落ちてきたのかと目を這わせると 自分の頬を伝って落ちたことに気づいた。

なんで僕泣いてるの・・・?

自分が泣いていることに気づいたキラは服の袖で涙を拭き取ろうと腕を顔へ近づけた。
だが、近づけようとした腕はギルバートに掴まれ、拭くことはできなかった。

「泣きたいのなら、泣きなさい」

我慢しなくてもいい

「うっ」
いつの間にか傍にいたギルバートの真正面から向かい合う真剣に表情を見たとたん、涙が一気に溢れだした。

「う、うっく、っ、うわぁぁぁぁぁぁあああああああ」
キラはギルバートの胸板に倒れるかのように顔を埋め思い切り泣いた










和らげな亜麻色の髪をそっと撫でてやる。
「落ち着いたかね?」
落ち着きを取り戻したキラは恥ずかしくなりギルバートの胸板から顔を離し、バッと後退した。
「すみませんっっ・・・」
キラは先程とは違う意味で顔を俯かせた。



「今日はここに泊まってゆきなさい」

「え?」
キラは俯かせていた顔をバッと上げ、ギルバートの方を見た。
目がバッチリと合い、何故かドキリと心臓が跳ねてしまい続けててドキドキンと鳴る。
とっさのことにキラは頬を少し赤らめた。

そんなキラに微笑ましいそうにギルバートは笑みを浮かべる。
「泊まる所の宛は特にはないのだろう?それに、その顔では私も君を外へ出すのは辛い」

少し息詰まった。
アスランには会うためではなく、ただ彼のいる場所に立ち寄っただけだ。
ただ、少しだけでも顔が見れれば、と少し思っただけ。

そして自分の顔がどんなものかは鏡がなかったのでわからないが、きっと凄いことになってるのだろう。
目元の濡れた感覚が抜けず、目を開くのも少し辛かった。
きっと赤くなって腫れてしまっているのだろうと思った。

「いいんですか?」

ギルバートは一瞬目を見張ったがすぐに戻し、表情を緩めた笑みを浮かべた。
「大歓迎だよ。私もその方が嬉しい」










□■あとがき■□
2番手の三枝圭です。
すいませんすいませんすいませんすいま・・・(続
遅くもなってすみません・・・。嗚咽もすいません・・・(苦笑) 胸板に顔埋めさせてすみません(笑)密かな願望!

いきなりメンデル話がくるとは思ってなかったので、ちょっとびっくりしました(笑)

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