第1話



□■第1話■□

 戦争が終わり、連合とザフトの間では停戦協定が結ばれた。

 その終結に大きく関わっていた第三勢力のメンバーはそれぞれのあるべき場所へと戻っていった。

 エターナルクルーやアスラン、ディアッカはザフトへ。クサナギとAAのクルーたちはオーブへと戻り、それぞれの出来ることをはじめた。

 アスランは父の罪を少しでも償うために評議会議員の一員となり、カガリはオーブの代表となった。ディアッカやイザークもそれぞれザフトへと戻った。







 だが、そこに、キラの姿は、なかった。











 ヤキン・ドゥーエでの闘いから時は流れ、プラント最高評議会の議長には元議長であるシーゲル・クラインの遺志を継ぐギルバート・デュランダルが就任した。

 その彼は今、評議会本部の自室にいた。側には、護衛であるシン・アスカがいる。

「全く・・・。連合も譲歩という言葉を知らないのか・・・」

 書類に目を通しながら、ギルバートは呟いた。いくら戦争が終わったからといって、コーディネイターとナチュラルの間に生まれた軋轢はそうそうなくならない。ましてや、その停戦合意の裏に、和解ではなく、両軍の疲弊があったのだからなおさら。

「オーブは・・・技術の使用を中止せよ、か」

 まだ若く幼い現代表を思い出し、ギルバートは苦笑した。彼女は、政治の裏にある世界を認めようとはしない。まっすぐに、正義感だけで進む。それが、代表として正しいかどうかなど考えずに。

 中立を保つのもいいが、あまりに奇麗事だけでは、二年前の二の舞になるのではないか、とギルバートは思う。二度も国が滅びるなどということになれば、犠牲になるのは民なのだ。



 今、自分の側にいる彼が、そうであるように。



「ふぅ・・・」

 とりあえず一通り目を通したギルバートは軽く息をつき、少し休むかのように窓辺に立った。窓から見える先では、人々がせわしなく動いている。

「・・・ん?」

 と、不意にギルバートはその中でたった一人、全く動かずに評議会本部を見ている人影に気がついた。遠目でよくはわからないが、亜麻色の髪の、少年のようだった。

「あれは・・・」

 まさか、という思いがギルバートの脳裏をよぎり、気がつけば彼は身を翻し、ドアへと向かっていた。

「議長!?」

 それに驚いたのはシンだ。慌ててギルバートの後を追おうとする。

「シン、今日はもういい。帰ってくれて構わない」

「は、議長!?」

 振り向きもせずにいわれた言葉に、シンはますます目を見開いた。だが、ギルバートはそれ以上何もいうことなく、その場を去っていってしまった。









「ここに、アスランがいるのか・・・」



 最高評議会本部を見つめ、キラは呟いた。

 別に、彼に会いに来たわけではない。ただ、プラントに来たから、足を運んでみただけ。



―――自分と関われば、きっと彼らを巻き込んでしまうから。



 彼らからすれば、自分は突然姿を消した失踪者。いや、逃亡者のほうが正しいかもしれない。実際、自分は『逃げている』最中なのだから。

 戦禍の中、知ってしまった知りたくもなかった真実。自分の出生と、実の両親のしてきたこと。そのことは、姉であろうカガリにすら、告げてはいない。彼女はウズミ・ナラ・アスハの娘。それを覆してはならないから。

 本当なら、オーブでカガリの手伝いをするべきだったかもしれない。けれど、自分はオーブにはいられなかった。『キラ』という人間の存在そのものが、ブルーコスモスの攻撃対象であるがゆえに。

 無関係の人間を巻き込みたくなくて、オーブを離れ、コロニーを転々とした。そして、最終的にたどり着いたのは、プラント。ここならば、ブルーコスモスもそうそう入ってくることは出来ない。

「これから、どうしようかな・・・」

 自分で命を絶つことも考えた。けれど、それは奪った命に対する冒涜だと思い、踏みとどまった。そうなれば、後は逃げ回るしかない。

 プラントは安全ではあるが、それでもアスラン達は頼れない。万が一のとき、彼らまで巻き込むなんて、したくはないから。

 そうなれば、後は、何処かで部屋でも借りて、ばれないようにひっそりと生きるべきだろうか。幸い、プログラミングの技術のおかげで、職に困ることはなさそうだし。

 と、そんなことを考えて、とりあえず別の場所へ行こうと、キラが踵を返したときだった。







「キラ・・・?」







 不意に、背後から名前を呼ばれた気がして、キラは思わず振り返った。そこに立っていたのは黒い長髪の、見覚えのない男性。

「キラ、なのか・・・?」

 再び名前を呼ばれた。どうやら、空耳ではないらしい。男性の視線はしっかりと自分を捕らえていて、人違いでもなさそうだ。

「あ、の・・・どちら様、ですか・・・?」

 それでも目の前の男性のことは思い出せなくて、キラがそう尋ねると、男性は僅かに眉を寄せたが、すぐに表情を戻した。

「あぁ・・・そうか。覚えていないのか。なら、自己紹介しよう。私は、ギルバート・デュランダル。今はここで、最高評議会議長を務めさせてもらっている」

「!?」

 告げられた言葉に、キラは大きく目を見開いた。

「ひょ・・・評議会議長が、どうして僕のことを・・・!?」

 キラが驚くのも当然だろう。なにせ、過去にキラがプラントにいたのはほんの数週間程度。それも、2年前の話で、限られた人物としかあっていないのに、何故現議長が自分のことを知っているのか。

 困惑するキラに、ギルバートは僅かに笑みを浮かべた。

「私は、君の両親を知っているし・・・君とも、会ったことがある」

「え?」
 その言葉に、キラは先ほどとは別の意味で目を見張った。

「まぁ・・・君は覚えていないだろうが。幼かったからな」

 心底懐かしそうにいうギルバートは、嘘をついているようには思えない。

「父さん達を・・・知っているんですか?」

 自分の記憶が確かなら、『今』の両親は一般人だ。それがなぜ、評議会議長になるような人間と知り合いなのだろうか。

「あぁ、よく知っている。・・・君は、母親似、か?」

「っ・・・!!」

 その言葉に、キラはまた目を見開いた。普通に考えれば聞き流せばいい問いかけ。けれど、『真実』を知っているキラにとって、それは聞き捨てならない言葉。

「・・・あなたは・・・『どっち』を、知っているんですか・・・?」

 もしも自分の気のせいだったときのことを考え、あえてそう尋ねた。だが、ギルバートはキラのその言葉に驚いたように目を見張って。





「君は・・・知っているのか?自分の、出生を・・・」





 それは、キラの予感が当たったことを示す言葉。その事を悟った途端、キラの胸に飛来したのは戸惑いと、困惑と・・・喜び。『真実』の全てを知っている人はもうみんないなくて。両親には聞くことも出来ず、だが、その知りたかったことを知っている人間が目の前にいるという事実に、キラは、確かに喜びを覚えたのだ。

「・・・知って、います。メンデル、で知りました・・・」

 キラが、そう答えると、ギルバートはますます目を見張り、ふと何かに気づいたように辺りに視線をやると、キラの腕を掴んだ。

「あの・・・?」

「ここは人通りが多い。私の家で話そう。君も、他人には聞かれたくないだろう?私も、できればあまり知られたくはないのだ」

 そういい、ギルバートはキラを自分の使う車へと連れて行った。










□■あとがき■□
 え〜と、リレー一番手のレシュカです。いきなりひっちゃかめっちゃかですみません・・・。

 二番手以降の方が書きにくくなってしまっているかもしれませんが、お許しを・・・(汗)

 とりあえず、ギルとキラの出会いのシーンだけ書きました・・・。これ以上はきれなくなるのでこの辺で。設定など、付け足してしまったところがあるかもしれません・・・。


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