第7話



□■第7話■□

沈黙が痛かった。



「僕は・・・・・・・」



その先が繋がらない。

キラにとってのアスランは、大切な人には違いない。違いないのだが、それはなんだか違うような気がするのだ。

親愛。

幼い頃から共に育った彼。

気になることは気になる。むしろ気にならない方がおかしい。だが、何故だろうか、キラはそれを素直にそれを伝えられずに居た。



「・・・・・・・・・すまない。君を困らせるつもりはなかったのだが」

「・・・そんな、こと・・・・・ないです」



俯いた視線をギルバートに戻すと、彼は普段と同じように微笑んでいた。少々困惑した色も伺えたが。



「ごめんなさい、ギルバートさん・・・・・」

「キラ?」

「・・・・・・・・・ちょっとだけ、整理させてください」



その言葉に一瞬驚いたものの、それを表に出すようなことはせず、ギルバートはキラの頭を優しく撫でた。いいだろうというかのように。

キラは淡く笑むと、一礼して自室へと戻っていった。













キラが去り、手持ち無沙汰となったギルバートは、手元にある急がなくてもいい仕事に手をつけた。

何かをしていなければ、考えてしまう。

キラのこと。アスランのこと。

戦場を生き抜いたアスランの瞳の輝きは、素晴らしいものだとギルバートも評価していた。

だが、キラがアスランの事を気にしている、その事実だけで彼が優秀な部下から憎い相手に感じてしまう。



「このままでは私情を挟んでしまいそうだ」



自嘲めいた笑みと共に吐き出されたため息。

持っていたペンを置き、いすを回転させ窓の外を見た。

闇に輝く星々と、大地を照らす街灯とでそこまで暗いと感じないが、しかし、夜だった。夜は神秘的なものだ、と。昔誰かに言われたことがある。その時はそういうものか、としか思っていなかったが、今は違う。

その殆どがが人工で構成されているプラントの夜も、神秘的なものを感じさせる。



どれ位外を、夜を見ていたのだろう。

意識が他にあるギルバートを、彼の身体に引き戻したのは突然響いたノックの音だった。



「誰だい?」

「・・・・・・・・・あの、キラ・・・です」

「キラ!?」



そう言うか否やギルバートは扉へ大またで向かうと、勢いよく閉じた扉を開いた。

すると、確かにそこにはキラがいた。既に夜具に着替えているキラは、ギルバーとの姿を確認すると、俯いてしまう。



「・・・・・・・・・兎に角入りなさい」

「はい」



肩を抱き、招き入れるとキラは迷うこともなくソファーへ腰をおろした。

ギルバートもその向かい側に腰をおろす。



「こんな時間にどうかしたのかい?」

「・・・・・・さっきは、すみませんでした」

「ああ・・・・別に気にしていないよ。まさかそれを言う為に?」



それは嘘だ。本当は気にしている。しかし、それを表に出すことは憚られた。いや、ギルバートが許せなかったのだ。

キラは、膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めると、真っ直ぐにギルバートを見た。

どこまでも真っ直ぐなその瞳は、穢れない、美しいものだ。



「僕は、アスランのこと、家族のように思ってました」

「・・・・・・・・・ああ」

「今の僕はその家族にさえ頼ることが出来ない。家族だから、頼ることが出来ない」



遠く離れた地にいる、此処まで自分を育ててくれた両親に、キラは何も告げていない。黙ったまま此処に来てしまった。



「でも、やっぱり気になるんです。元気かな、とか。人付き合いが上手くいってるのかな、とか」

「だから、聞きたかった、と?」



無言で首肯する。

あの時どうしてギルバートの言葉を遮ったのか、キラはまだ分かっていない。あの後に続いたギルバートの言葉が、何故だか聞きたくないと思ったことしかわかっていない。

しかし、今はそれだけで十分だ。



「そ、それじゃあ僕、もう休みますね」

「・・・・・・・・・・・話は聞かなくていいのかい?」

「次の機会まで待ちます。もう夜も遅いですし」



いわれて時計を見遣ると、確かに針は夜中に近い時間を刻んでいる。再びキラに視線を戻すと、ね、と首を傾げて笑っていた。



「そうだね。ところでキラ」

「なんですか?」

「今日も此方で寝ないのかい?」

「なッ!?」



瞬間湯沸かし器のように頬を染めると、キラは空気を求める魚のように口をパクパク動かす。言葉が出てこないようだ。



「ッ寝ません!」

「それは残念」



堪えきれない笑みを零しながら、ギルバートは部屋の扉を開ける。キラは立ち上がると、頬を染めたまま部屋を出て行った。廊下に出て一度振り返る。



「おやすみなさい」

「おやすみ」



ペコリとお辞儀をすると、キラは与えられた自室へ向かっていく。

キラの姿が角を曲がって見えなくなったのを確認すると、ギルバートは自室へと入っていった。



曲がり角を曲がった所でキラは壁にもたれかかっていた。まだ頬の赤みは取れていない。それと平行して早くなった鼓動もまだ鎮まっていなかった。

視線を動かし、ギルバートの部屋を見遣る。既に閉じられたその扉。その向こうにはギルバートが、自分を受け入れてくれた人がいるのだ。



「・・・・・・・・僕は此処に、ギルバートさんの傍にいて、いいんですよね?」



キラの問いに答えるものはいなかった。

それでも、キラは問わずにはいられなかった。













翌朝。

寝坊する事無く起き、ギルバートと共に朝食を済ませた。彼が準備をしている間厳寒へ向かったキラは、見慣れた姿に口元を綻ばせた。



「おはよう、シン」

「あ、おはようございます。キラさん」



キラの姿を認めると、シンは人懐こい笑みでキラに駆け寄ってきた。



「朝早くからお勤めご苦労様」

「そんな事ないですよ!」



勢いよく目の前で手を振るシンがなんだかおかしくて、キラは笑みを深くした。

そのまま暫く談笑を続けていると、準備を終えたギルバートが姿を現した。



「おはようございます。議長!」

「おはよう、シン」



ギルバートはそのまま二人に近付く。

キラが視線をめぐらせ時計をみると、そろそろ時間が危なかった。今日は朝から特に何もないとは聞いているが、遅くなりすぎるのも駄目だろう。

ギルバートとシンもその事に気付いているらしく、そろそろ、という雰囲気がいつの間にか出来ていた。

そんなに気を使わなくてもいいのに、と思う反面、彼らの優しさが嬉しかった。



「ギルバートさん、シン。いってらっしゃい」

「ああ、いってくるよ」

「い、いって来ます!!」



柔らかな笑みを浮かべたキラ。ギルバートはくしゃりと頭をなで、シンはうっすらと頬を染めて逃げるように玄関の外へと飛び出してしまった。

その行動の理由がわからず、キラは首を傾げるがさして気にすることでもないだろうと切り捨てる。



「今日の帰りも昨日と同じ頃だから一緒に夕食をとろう」

「はい。楽しみにしてます!」



じゃあ、と片手を上げギルバートは先に出て行ったシンを追いかけていった。勿論その足取りはどこまでも優雅にゆったりとしていた。











□■あとがき■□
すみません。すみません。すみません。
二ヶ月も止めてしまって。皆様本当にすみませんでした。
しかも話し進んでませんしね。あははは(遠い目
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私的にギルキラなんですが、なんか違うような。違うような。
此れこそまさに要修行って奴ですね。

ご迷惑ついでと申しますか、相河一身上の理由で一端抜けさせていただきます。
いやもう本当にすみませんです。
ではでは。


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